日本学生野球協会審査室委員・弁護士の望月浩一郎さん講演
第98回選抜高校野球大会の開幕を翌日に控えた2026年3月18日、兵庫県西宮市内で、都道府県高校野球連盟の理事長・専務理事らを対象に、日本学生野球協会審査室の委員で弁護士の望月浩一郎さんが「すぐれた選手・チームを育てるために指導者に求められるもの-『暴力・暴言・ハラスメント』に頼らない指導」の題で講演しました。
望月浩一郎さんの講演を聞く都道府県高野連の理事長、専務理事ら(写真はいずれも、2026年3月18日、阪神甲子園球場近くの甲子園プラスで)望月さんは、スポーツ選手の命や心身の健康、人権を守る活動に力を注いできた弁護士。2007年に起きた高校野球特待生問題を機に、日本高校野球連盟が野球部活動のあり方を見直そうと設けた有識者会議の委員となったのが学生野球と関わるきっかけで、3年後の2010年に全面改正される日本学生野球憲章の検討委員も務めました。
高校、大学野球の不祥事案件を審議して処分などの裁定を行う日本学生野球協会審査室の委員を2008年から務め、日本スポーツ協会(旧日本体育協会)の処分審査会委員、スポーツ少年団常任委員も務めています。
野球のイメージは「危ない?」「暴力的?」
望月さんは講演の初めに、他の競技と比較して、野球の部員数が減少傾向にあることを、統計資料をもとに紹介し、その理由について、「一つは、野球は非常に危ないスポーツであること。重症化もしくは死亡する事故が多い。もう一つは、暴力が起きやすい、と見られている」と話しました。
2025年の調査では、重大なスポーツ事故に対して死亡見舞金・障害見舞金が支払われた損害賠償判決数の競技別の割合は、野球が27.3%を占め、サッカーの12.8%、バスケットボールの8.8%などを上回り、かなり高く、「このような実態を止めていかないと、野球には未来がないと思います」と訴えかけました。
講演する望月浩一郎さん続いて、「暴力・暴言・ハラスメント」に関する例を紹介しました。
2020年、野球部の指導者がティーバッティングを50回13セット(計650回)するよう指示したのに対し、ある部員は「50回もやると、打撃フォームが崩れてしまう」と20~30回に減らした。指導者は「約束が違う」と叱り、部員の胸をつかんで引きつけた。指導者が手を離した際に部員はよろけて防球ネットの縁に後頭部が当たり、首を捻挫し全治10日間の傷害を負った。
「生徒に手をあげたこと自体、とんでもないこと。さらに、指導者の言い分よりも、生徒の主張のほうが、筋が通っているように感じます。部活動とは生徒の自主的な参加によるものだということを、指導者が理解していないのが問題です」
生徒たちの自主性を大切にしている実践例として、他競技の部活動での取り組みの紹介もありました。
不祥事が顕在化しやすい現代
日本高校野球連盟への報告では、指導者の暴力は80校に1件、部員の暴力は13校に1件(2024年度)という数字になっています。
また、スポーツ界の不祥事を伝える報道は、2009年158件に対し、2013年は22倍の3418件、2018年は38倍の5996件と増加する一方です。
そのような状況について、望月さんは「指導者による暴力などが顕著に増えている訳ではありません。ただし、SNSの普及、人々の権利意識の強まり、社会の注目度の高まりなどで、不祥事が顕在化しやすくなっています」と説明しました。
体罰・暴力・ハラスメントは、法的に以下のように考えられます。
刑法で禁じられている犯罪行為としては
- ・暴行罪(刑法第208条)
- ・傷害罪(刑法第204条)
- ・不同意わいせつ罪(刑法第176条)
- ・不同意性交罪(刑法第177条)
- ・脅迫罪(刑法第222条)
- ・強要罪(刑法第223条)
- ・軽犯罪法
- ・都道府県の迷惑防止条例
また、民事上でも損害賠償の対象となりえます。
それでも、暴力がなくならないのはなぜでしょうか。

暴力を容認・支持する人々とは?
暴力を容認・支持する人々の気持ちをよく表しているとして、新聞の投稿欄に載った記事が紹介されました。
「あるとき、気を抜いた練習をとがめられて、ボコボコに殴られた。殴る監督の目に涙があった。それを見たとき、私はこの監督について行く決心をした」
そして、以下のような考えを持つ人々も同様だといいます。
「競技力を高めるためには、厳しい指導が必要だ」
「愛情と信頼関係があれば、愛のムチは有効だ」
「厳しい指導で規律を守れる子どもを育てるのは、指導者の責務だ」
「厳しい指導はどこまでなら許されますか?」
望月さんは、暴力を容認・支持する人の傾向として「指導者は『大会で好成績を収めるなどの実績がある』、生徒や保護者は『我慢強さを身につけ、社会人となって役立っている』などの成功体験をもつ。いわば、暴力の〝勝ち組〟なのです」と指摘します。
暴力を容認・支持する人々とは、指導者や保護者らだけでなく、著名で影響力のあるアスリートやコメンテーター、学校や自治体である場合もある、といいます。
暴力・暴言は指導方法ではない!
では、暴力・暴言・ハラスメントを抑制するには、どうしたらよいのか?
「暴力は正しい指導方法などではなく、完全なるルール違反。指導方法の一つに数えること自体が間違い。まず、それをよく理解することです」
「暴力に頼りがちになる原因として、勝利至上主義や競技力向上を挙げる人もいます。しかし、この考え方も間違いです。暴力に頼れば、競技力が向上し勝利できると錯覚しているだけで、暴力を容認・支持する人々と同じ土俵に立っています」
そのうえで、取り組むべき四つの事柄を挙げます。
- (1)
- 暴力は許さないという、競技団体としての宣言
- (2)
- 暴力に頼ろうとする指導者への教育
- (3)
- 暴力は許さないという、競技団体としての行動
- (4)
- 隠蔽を許さない対応

暴力を振るう指導者の4類型と対応策
また、暴力を振るう指導者のタイプを四つに分類しました。
| ①確信犯型 | 暴力を振るうことを有益で必要だと信じている(高校野球ではこのタイプは少ない)。 |
|---|---|
| ②指導方法分からず型 | 暴力はダメと分かっていても、手をあげる以外の指導方法を知らない(高校野球で一番多いタイプ)。 |
| ③感情コントロールできず型 | 暴力はダメと分かっていても、感情をコントロールできずに手をあげてしまう(高校野球で2番目に多いタイプ)。 |
| ④ストレス解消型 | 自分のうっぷん晴らし、ストレス解消として、暴力を振ることを楽しむ。 |
以上のうち、③④はアンガーマネジメントなど個々人で努力すべきもの。①②は周囲の人々や所属団体などの働きかけによって改善につながる可能性がある、と指摘します。
日本高野連が2008年度から続けている若手指導者の研修会「甲子園塾」についても触れました。暴力に頼らない指導方法の追求を主眼としており、「グループ討論などを通じ、体罰の是非、生徒をどう導いていくのか悩みを語り合い、自分を見つめ直す良い機会になった」という参加者の談話を紹介しました。
望月さんは「各都道府県の皆さんが『暴力・暴言に頼らずに、真の勝利を目指すような指導者を育ててみたい』と思っていただけたら、幸いです」と締めくくりました。