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若き指導者育成の甲子園塾、軟式指導者12人も受講

全国の若手指導者たちがより良い指導方法を学ぶ「甲子園塾」を、11月と12月の2回に分けて行いました。今年度は、従来の枠に加え、軟式野球部指導者12人も参加。前半の第1回(11月28~30日)と、後半の第2回(12月12~14日)を合わせた受講者は過去最も多い66人にのぼりました。

2025年度・第1回の甲子園塾でトスバッティングについて指導する小倉全由さん

体罰・暴言によらない適切な指導方法を

2008年度に始まった甲子園塾の主な目的は、体罰や暴言によらない適切な指導方法を追求することです。甲子園出場経験のある指導者らがグラウンドで指導方法を伝えるほか、生徒とのコミュニケーションの取り方、不祥事への考え方、大会や都道府県連盟の運営に関する講義、指導方法や体罰に関するグループ討議もあります。
次代を担う指導者を育てる「甲子園塾」

各都道府県から1名(北海道、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫は2名)の54名に、今年度は軟式部の指導者12人を加えた計66人が、33人ずつ2回に分かれて受講しました。

塾長の正木陽さん(日本高野連技術振興委員長/元高知商監督)、今年9月までU18日本代表監督だった小倉全由さん(日本高野連技術振興委員/前日大三監督)は前後半ともに指導。そのほか、第1回では2024,2025年夏の全国選手権大会に出場した宮崎商監督の橋口光朗さん、福井県高野連理長の中川秀樹さん、第2回では全国選手権大会に同じく2年連続で出場した金足農監督の中泉一豊さん、和歌山県高野連専務理事の髙津亮さんらが講師を務めました。

「プレーして・見て・参加して楽しい野球に」

第1回の開講式で寶馨・日本高野連会長は、少子化に加えて野球をする子どもの数や割合も減っている現状を打開するための取り組みに触れました。「野球とは本来、プレーして楽しい、見ても楽しい、参加しても楽しいものです。将来、後輩となるかもしれない子どもたち、試合を見に来てくれるかもしれない地域の人たち、高校野球を支える審判委員や役員となるかもしれない人たちのことも意識してください」と話しました。

塾長の正木さんは、元日本高野連事務局長の故・竹中雅彦さんが「野球部員が減少する中、数あるスポーツの中から野球を選んでくれた球児を、指導者はもっと大切にしてほしい」と語っていたことを紹介。「エラーした選手を叱るように問い詰めるのではなく、どうすればエラーを防げたのかと質問の仕方を変え、選手が自ら考えるよう促してください」「生徒の将来にとって大切だと思うことを、情熱と愛情のこもった言葉遣いで何度でも繰り返し伝えてください」と呼びかけました。

体罰・暴言の原因や防止策を考える

2日目の座学では、日本高野連の井本亘・事務局長から日本学生野球憲章が生まれた歴史的経緯や内容についての説明があり、尾上良宏・審議委員長が高校野球は学校教育活動の一環であり、その指導者に求められることについて講義しました。

体罰についてグループで討議する受講者

講義の後、受講者はグループに分かれ、体罰・暴言の原因や防止策について討議し、考えを深めました。意見の一部を紹介します。

  • ◆教師自身が感情的になったり焦ったり、独りで問題を抱え込んでストレスがたまっていたりする時に、体罰や暴言は起きやすい。
  • ◆自分は「暴言を吐いたことがない」とは言い切れない。自分がそうでないと思い込んでいるだけで、生徒の受け止め方次第だ。基準や事例について、研修や教員同士の勉強会などを通じてよく理解しておく。
  • ◆体罰・暴言などの不祥事案件に関する知識や情報のアップデートも必要だ。
  • ◆練習環境を閉鎖的にしない、なるべく複数の指導者やチーム関係者がより多くの部員とコミュニケーションをとれるようにする。
  • ◆型にはめようとし過ぎる指導方法ではなく、生徒が基本的なことを理解、納得するようになったら、自分で考える力を身に付けさせる「守破離」も有効ではないか。

良い雰囲気づくりを心がけて

甲子園塾の技術指導では、どの講師も、自チームの練習方法を惜しみなく披露しながら、具体的に教えます。

橋口光朗さんのトスバッティング指導を見る受講者ら

小倉さんは、投手と捕手も加わって併殺を狙う内野ノックを実践しました。

  • ・投手前にゴロ→二塁ベースカバーの遊撃手に送球→一塁手へ転送
  • ・二塁手の前にゴロ→二塁ベースカバーの遊撃手に送球→一塁手へ転送
  • ・捕手前にバントのゴロ→三塁手に送球→一塁手へ転送
    といったパターンをテンポ良く繰り返し、ノックの一打一球ごとに、投手と捕手を含むプレーヤー全員がよく動くため、より実戦的で効率的でもあると話しました。

橋口さんは、外野から本塁への中継プレーを速く正確にするポイントを挙げました。

  • ・中継に入る内野手2人のうち、外野寄りに構える内野手は本塁との距離が長いので、肩の強い選手がよい。
  • ・一直線上に並ぶことが大切。内野手が構える位置が右か左か、捕手がはっきりと大きな声で伝える。
  • ・カットするかダイレクトか、どちらの内野手がカットするか、試合で素早く的確に判断できるよう、練習で色々なパターンを試して選手間で決めごとをつくらせる。

など、具体的に紹介しました。

軟式指導者の参加枠を新設

2025年に全国高等学校軟式野球選手権大会が70回を迎え、5月には阪神甲子園球場で普及・振興を目的とした「春の軟式交流試合」を実施しました。軟式野球は幅広い世代で親しまれており、日本の野球文化を長年支えています。野球の普及という点から見ると、軟式野球の存在意義は大きく、軟式部の指導者の指導力向上の機会も増やそうと今年度へ、参加枠を新設しました。

第1回には北海道、青森、新潟、長野、岡山、鳥取、第2回は岩手、秋田、静岡、滋賀、広島、島根の軟式部の指導者が参加しました。来年度以降も順次、他の都府県から参加の予定です。

打撃指導をする正木陽さん

子どもたちと野球部員がふれあう機会を

日本高野連と日本野球機構(NPB)が連携・協力して今年始まった「キッズ ファースト アクション」についての講義も今年度から新たに加わり、日本高野連事務局が説明しました。

キッズ ファースト アクションは加盟校が保育園などを訪問し、野球部員が幼児たちとボール遊びを通じてふれあい、幼児や保護者らに野球に興味・関心をもってもらおうという取り組みです。中国地区の高校野球連盟ではすでに、「1校・1園の普及活動」として加盟校が小学生、保育園を訪問するなどしていますが、このような活動をさらに全国に広げていくためにNPBと協力していくことになりました。

講義では、キッズ ファースト アクションがなぜ必要なのか▽実践方法▽NPBからの提供グッズと注文方法などについて紹介しました。

キッズ用のボールやバットを手にする受講者

「都道府県連盟の役割」「部活動の役割と課題」について講義した福井県高野連理事長の中川さんは野球部員や加盟校が減り続けている現状を示し、野球部員と子どもたちが交流するような機会をつくるには、加盟校の指導者の理解と協力が不可欠だと話しました。同県高野連とプロ野球同県人会が共催する「きっずボールフェスタ」を12月中旬に開く予定で、幼児や小学1、2年生の約150人と加盟28校から部員3人ずつが参加し、一緒にボール遊びをする試みも紹介しました。

キッズ ファースト アクションのような取り組みについて、受講者に聞きました。

福井県立羽水(監督)の宇野達紀さん(29)

今年8月、インスタグラムに同校野球部のアカウントを開設し、ふだんの練習風景や宿泊遠征のときの映像、練習時間や活動内容の情報を公開し始めたそうです。「野球をしている子どもには、うちの野球部に興味を持って選んでほしい。野球をしていない子どもには、おもしろさを感じてもらい、ボール遊びをするような子どもが増えてくれればいい。今後は部員と子どもたちが直接交流できる機会もつくりたいと思います」

北海道滝川西(軟式監督)の佐々木康天さん(31)

滝川西に着任して8年目、硬式の副部長から軟式の監督に就いて3年目。地元の小学3年生までの野球クラブの指導を硬式の部員が長く手伝ってきた関係から、現在も、子どもクラブの監督を任されているそうです。「お兄ちゃんたちと一緒にやるとき、子どもたちは本当にニコニコしています。高校生のほうも、子どもたちが上達していくのを感じられてうれしい。たくさんの学びがあると思います」

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