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《プロ野球と高校野球【3】》プロ使用済みボールの譲り受け、20年間で112万球

プロ野球の公式戦やキャンプで使用済みとなったボールの一部は、日本高校野球連盟の加盟校に贈られ、ふだんの練習に生かされています。譲り受けが始まったのは2006年。まず約2年かけ、1校あたり5ダース・60球ずつが全4192校に行き渡りました。全加盟校への配布は今、5巡目に入っており、20年間にわたる総数は9万3905ダース・112万6860球にのぼります。このうち、24年の能登半島地震の際には石川県の加盟校へ優先的に3130ダース・3万7560球が贈られました。

2025年、プロ使用済みボールを受け取った愛知・名古屋市工芸の部員ら
関係改善が進み、プロ側から提案

プロ野球と高校野球は戦後の長きにわたって断絶状態にありましたが、「高校野球に恩返しがしたい」と願う現役プロ選手たちが高校生を直接指導する「夢の向こうに」が2003年に始まったことなどを機に、関係改善が進みます。

2005年シーズンオフからは、現役プロ選手が帰郷した際などに母校で練習ができるようになります。これは、各都道府県の高校野球連盟、現場の指導者らの理解と協力があってこそ、実現したことでした。

一方、プロ側からの歩み寄りもありました。それまでプロ各球団の使用済みボールの取り扱いは様々でした。2005年3月の「12球団スカウト、編成代表者会議」で、使用済みボールの寄贈についてアマ側と折衝するべきとの意見が出され、その後、スカウト会代表者から日本高野連に申し入れがありました。

全国すべての加盟校へ公平に

プロ各球団からの申し入れに対し、2005年4月、日本高野連から「部員数に関係なく1校は1として均等数を分配」「球団との窓口を日本高野連事務局に一元化する」などの案と、全国の加盟校に一括配分する際の検討課題が示されました。

この提案に対し、当初は一部球団から「全加盟校に提供すると、1校あたりへの配布数が少なくなるのでは」と心配したり、「従来の譲渡先や本拠地の関係者らとの付き合いも大切にしたい」と難色を示したりする声が出たといいます。

しかし、積極的な球団による働きかけもあり、12月の12球団の会議で、各球団が使用済みボールを拠出し、日本高野連を通じて全国の野球部に寄付することが決まり、全加盟校に5ダース・60球ずつを順次、配布していくことになりました。

2024年、石川県高野連に贈られたプロ使用済みボール

プロ野球から提供される使用済みボールとは、皮が裂けたり糸が切れたりしたものはすでに除外されており、表面に土が付着したり、球団ロゴがこすれ消えかかったりしている程度です。高校野球の練習試合、ふだんの練習に使うには何ら支障ありません。

もし新品を買うとなると、硬式ボール1個の価格(消費税込み)は2006年当時で1019円、現在で1397円。これが5ダース・60球となると、06年当時で6万1140円、現在で8万3829円になります。

部活動費が限られ、ボールの寄付を受ける機会も少ない加盟校にとっては、ありがたいプレゼントです。

キャンプ地の県高野連が尽力

まずは2006年2月の春季キャンプで使用済みとなったボールを回収し、高校野球側へ提供し始めることになりました。

プロ各球団は、宮崎、沖縄県などそれぞれのキャンプ地にある県高校野球連盟に一旦、使用済みボールを預け、何ダース預けたかを日本高野連事務局に報告しました。

事務局は総数を集計し、1校あたり5ダース・60球を何校に贈ることができるかを把握。どの都道府県連盟に何ダース発送してもらうかを、ボールを預かっているキャンプ地の県高野連に伝えました。

宮崎県内ではその年の2月、プロ4球団の1軍が春季キャンプを張っていました。

当時の県高野連理事長だった松元泰さんによると、巨人の使用済みボールが保管されていた宮崎市内の球場の倉庫に、日南市内でキャンプを行う広島、西武の使用済みボールを、加盟校のマイクロバスで運んで集めました。

そして、複数の高野連向けに振り分ける作業を行い、発送しました。

また、宮崎市内でキャンプをしていたソフトバンクの使用済みボールは県内の加盟校に配布したそうです。

松元さんは「全国すべての加盟校に一律に配布するという試みが素晴らしい。加盟校の間でも不公平感が薄まって評価する声が多かったように思います」と振り返ります。

譲り受けが始まった2006年、鹿児島県高野連に届いたプロ使用済みボールを手にする浜田浩二さん(朝日新聞社提供)

隣の鹿児島県高野連には翌3月、宮崎、沖縄両県高野連を経由し計470ダース・5640球のプロ使用済みボールが届きました。県内94校の加盟校は春季大会の試合がある球場か、県高野連事務局に出向いた際にボールを受け取りました。

当時、鹿児島実の責任教師で県高野連常任理事でもあった浜田浩二さんは、ボールを球場に運搬し配布する作業にもあたりました。

「卒業生が多い、プロ選手がいるなどの理由で、たくさんのボールを寄付されるチームはわずかです。鹿児島は特に離島のチームも多いですし、本当にありがたかった。20年たった今も続いているのは、すごいことです」

感謝の気持ちをお礼状に

譲り受けが始まって約2年後の2008年4月、沖縄から北海道までの全加盟校4192校に、5ダース・60球ずつの配布が完了しました。

当時の脇村春夫・日本高野連会長は、根来泰周・NPBコミッショナー代行に宛て、配布が一巡したことを報告するお礼状を送りました。

「球団ロゴマーク入りのボールは、野球部員たちにとっても憧れのもので、地元球団ならずとも感謝と親しみが増したものと思います」「改めてプロ野球各球団のご好意に深く感謝申し上げる次第です」

また、日本高野連は、この年春の第80回記念選抜大会から甲子園球場のバックネット裏に「スカウト席」(1球団2席ずつ)を設けるとともに、スカウトにはIDカードを着用してもらうことにしました。使用済みボール提供に対するお礼であり、両者の関係をより明朗、健全にするための措置です。

2巡目以降、日本高野連はキャンプ地のある県高野連に負担をかけまいと、ボールの集荷と各都道府県連盟への発送作業を、宅配業者に依頼する方法に改めました。

使用済みボールを贈られた各加盟校は、プロ球団の代表者宛てにお礼状を書くことが当初から奨励されており、今でも続いています。

「早速、ノックやシート打撃で使わせていただきました。実際に選手の方々が使った球を見ると、一球一球に真剣勝負の緊張感が伝わってくるものでした」(2025年/長野・松本工→西武)

「貴社のご活躍から、日々元気をいただいています。私たちも応援してくださる方々に元気を与えられるチームを目指し、今後も精進してまいります」(2025年/愛知・刈谷→日本ハム)

地震被害の石川へ励まし・支援

2024年に起きた能登半島地震の際には、石川県高野連の加盟50校へ優先的に3130ダース・3万7560球が贈られました。県高野連の理事長だった佐々木渉さんは被災校の支援に明け暮れた当時を振り返ります。

2024年、石川県高野連に贈られたプロ使用済みボールを受け取った金沢学院大付の部員(中央)。右は当時理事長の佐々木渉さん

1月1日夕の地震発生時、佐々木さんは伊勢神宮参りのため、三重県伊勢市に来ていました。自身の母校である輪島など能登地方の14校が特に気がかりになり、各校の責任教師に電話やメールで部員らの安否確認を指示。夜通しマイカーを走らせ、石川へ戻りました。

七尾市の自宅に着いた2日の明け方頃までに、14校の部員とその家族はみんな無事だとの報告が寄せられ、まずはひと安心。3時間ほど仮眠し、金沢市にある県高野連事務局に出向き、具体的な被害状況の把握を始めました。

被害が特に大きかったのが、輪島をはじめ、穴水、飯田、門前など奥能登地方にある6校でした。グラウンドにひび割れや隆起が起きたり、部室や用具庫が壊れたりした様子を伝える写真、自宅の損壊や断水のために避難所から通学する部員もいるといった報告がメールで次々に届きました。

日本高野連事務局や都道府県高野連の関係者から、お見舞いや励ましの電話、メールが相次ぎました。北信越の他4県はもちろん、東北も6県すべての理事長から電話があったそうです。

「東北の皆さんは心が分かっているというのか、『困ったこと、必要な物があったら、遠慮せずに何でも言ってね』と声をかけてくださって。涙が出るくらいうれしかった。高野連ってすごいな、高校野球ってすごいなと思いました」

十数の企業や団体、プロ野球選手会からも支援の申し出が相次ぎました。「まずは日常生活の支援を」と、飲料水をはじめ、フリースのジャケットやパーカー、手袋、カイロ、ドライシャンプー、ボディーシート、マウスウオッシュなどを県高野連事務局に送ってもらい、仕分けをして被災した加盟校に届けました。

念頭にあったプロ使用済みボール

地震発生から約3週間たった頃、日本高野連事務局から、野球部活動の再開に向けた支援について尋ねられました。佐々木さんは迷わず、使用済みボールを回してほしいと答えたそうです。

「何校かでボールが水浸しになっている写真を見ていました。何よりもまず、ボールだと。新品など必要ありません。プロ野球からの使用済みボール提供のことは、もちろんよく知っていました。それしか、頭にありませんでしたので」

日本高野連は2月中旬、2024年に提供される使用済みボールをすべて石川県高野連に届けることにし、NPBに理解と協力を求める文書を送りました。

プロ各球団が春季キャンプで使ったボールが3月上旬ごろから、県立野球場に届き始めました。加盟50校は春季県大会の試合がある際などに球場で、1校あたり60ダース・720球ずつを受け取りました。

2024年、プロ使用済みボールを受け取る日本航空石川の部員ら

佐々木さんは「あんなにたくさん頂けるとは思いもよらず、ありがたいことでした。さらに、生徒たちは、提供してくださった球団にOBや県出身者がいるとか、憧れの選手がいるとか、よく話題にしていたようです。気持ちも高めてくれたのだと思います」。

「プロ野球と高校野球【4】」では、学生野球資格回復制度について紹介します。

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